Case Study
A社は長い歴史とグローバルで通用するブランド力を持つメーカであり、その根っこには創業者精神に基づく強い企業文化が組織全体に浸透しています。かつてはそうした企業文化がA社の成長のドライバーとなってきましたが、いつからか副作用が現れ、一部の人しか活躍できない組織になりつつあるのではないか。そんな仮説の下で本プロジェクトはスタートしました。
そうした副作用は、Lincqordがマイノリティリスニングを始めると同時に、露になってきました。マイノリティリスニングとは、女性・キャリア入社・高齢者・外国人などマジョリティ層ではない社員の声を集め、マジョリティ層が気づくべきギャップや落とし穴を見出す手法です。私どものインタビューに参加したほぼ全てのマイノリティ社員が、A社の企業文化に疑問を感じ、変革を求めていることが明らかになりました。
マイノリティが活躍しづらいA社の企業文化、すなわちDE&Iを阻害する代表的な要因として、以下のポイントが抽出されました(一部抜粋)。
-強すぎる上意下達:上司の指示・要請には全て応えないといけない(という空気)
-全方向からのミドルマネジメントへの圧力:課長は完璧でなければならない(という前提)
-Know Whoシステム:各部門のキーマンを知っていることが仕事ができる人(という思い込み)
-個々人のやりがい軽視:企業としてのパーパスに従うのが社員の役目(という認識)
次のステップは、経営陣による自己理解です。上記の企業文化のなかで、女性社員やキャリア入社の社員は、「こうした文化の中心からなるべく距離を置きたい」と考え、昇格チャンスや新たなチャレンジから避ける構図が生まれていることを経営陣が受け止めるために、丁寧な対話セッションを継続しました。当初は大半の経営層が社員の声を正面から受け止めることはできませんでした。しかし、A社の経営陣は対話を重ね、真相を追求することに価値を見出し、Lincqordとの対話は続きました。
経営陣の自社を新しいメガネで理解し、多様な声を受容できるようになれば、そこからはスムーズに施策が動き出します。タウンホールミーティングの開催、新たなロールモデルの定義と発信、現場対話会、さまざまなチャネルからのインターナルブランディング、さまざまなチャネルからのインターナルブランディングと、DE&I推進施策は連続的に展開され、定期的な効果測定が行われるようになりました。
100年を超える歴史と強固な顧客基盤を持つB社にとって、かつては継続的に安定的に事業運営をすることが至上命題でした。しかし、2016年に起こったエネルギー業界の自由化はB社の今までの前提を覆しました。継続や安定ではなく、失敗を繰り返しながら飛び地ビジネスへの挑戦をしていくことが、自由化競争を勝ち抜くには必須条件となりました。
その挑戦の上で大きなハードルとなったのが、歴史の中で培われた分業主義でした。つまり、経営陣は隣の部門には口を出さないことが暗黙の了解となっており、経営会議は各部門の報告会の機能を担っていたものの、経営イシューについて役員陣が議論を重ねて意思決定をする場になっていませんでした。経営陣同士は決して敵対しているわけではない、しかし他部門に口出しをするのはタブーである、自分の城を守ることが担当役員の業務である。この常識が長い歴史の中で培われていました。結果、ダイナミックな意思決定がされないために、組織運営は旧態依然としたまま。事業成長スピードが鈍化し、社員の離職も増えつつありました。
危機感を募らせた社長はLincqordに「経営会議をかき交ぜてほしい、対立が起こってもいいから、本音をぶつけ合う場を作ってほしい。そして新しいB社に必要な仕組みを経営陣全員で意思決定していきたい。そこに費やす期間はまずは1年。最初はうまくいかないかもしれないが、粘り強くやりきってほしい」との相談を持ち掛けてくださいました。
そこでLincqordは経営陣十数名に事前にひとりひとりのインタビューを行い、それぞれの問題意識や価値観を把握した上で、経営会議の運営に入りました。最初数回は、議論の足並みが揃いませんでしたが、なぜ足並みが揃わないのか、その背景にある視点の違いをLincqordが指摘すると、経営陣メンバーの中に、かつてのご自身が持ち合わせていなかった視点でB社のビジネスを見るような習慣が少しずつ定着してきました。経営会議の最中、経営陣はコーチングも受け、その場は各人がより自分の視点を内省する場にもなりました。
1年後、B社は管理会計基準、評価基準、採用基準の3つを抜本的に変更する意思決定に至り、現在様々な飛び地ビジネスへの挑戦を続けています。
C社は強いブランド力をもつサービス業です。そのブランド力に惹かれ、採用募集には多くの人が集まるため、人材獲得に困ることはありません。過半数の女性社員は仕事の過酷さ故に結婚や出産を機に退職していく現象が続いていたものの、高い採用力により退職の穴は新規採用で埋まります。95%以上の管理職ポジションは男性社員が占めていたものの、それはC社にとっての常識でした。
しかしながら、はたして今の人材流動の在り方は未来永劫継続可能なのか、という疑問が社内で少しずつ膨らみます。女性社員の離職率の高さや管理職比率の低さを是としたまま、C社は走り続けるのか、それとも今立ち止まって何かを変えるべきなのか。
そこでLincqordはC社女性社員が今の働き方をどのように評価しているのか把握するコンサルテーションに入りました。アンケート、インタビュー、座談会などを重ね、女性社員の本音を探ると共に、女性社員をマネジメントする男性管理職にも同様のアプローチを行いました。
その結果下記の事実が見えてきました。
・女性社員の9割以上が、女性管理職を増やす施策を会社に期待している
・女性社員の3割以上が、管理職になる意思を持っている
・女性社員の6割以上がC社のブランドやビジョンに共感しており、今後10年以上働きたいと思っている
・女性社員は実力に比して評価されにくい実態がある。それは過去から積み重ねられた社内の常識、空気であり、不公平感を感じていてもその常識を飲み込んでいる
上記解決の糸口が見えない根本原因は、現場と本社の距離にあることも見えてきました。
C社経営陣にとって、この結果は予想を裏切るものでした。女性の意思を把握したことが動機となり、経営会議で、組織の在り方を抜本的に見直す判断がなされ、現在は評価制度、勤務体系、教育体系の見直しに取り組んでいます。
業界の動きが緩やかで、かつプレイヤーが少ない中でビジネスを行ってきたD社ですが、ここにきて業界構造を揺るがすような地殻変動が起こっています。今まででは考えられないような外資系異業種からの新規参入もありました。
社長以下経営企画部門、人事部門は、この事業変化に対応するためには企業文化を180度変えていかねば太刀打ちできないであろうと危機感を露わにしていました。というのも、今までは厳しい競争環境に晒されていなかったため、D社の企業文化は穏やかで顧客への忠誠心が強いという強みがある一方、変化に対応する上では弊害になりそうな、冒険しない、他人の仕事には入り込まない文化が染みついていたのです。
社長はことあるごとに企業文化を変えていく必要性を訴えていたものの、役員以下社員の態度を面従腹背のように感じていました。社長はなぜ自分の言葉が伝わらないのか、社員は何を考えているのかを明らかにすることがまず第一歩なのではないかと考え、Lincqordに組織診断をお任せ頂きました。
組織診断の結果、全社的な傾向として見えてきたことは、下記の通り。
-メンバーが新しい提案をすると、上司が「リスクはないのか?」「それを望むお客さんがどの程度いるのだ?」とネガティブチェックが厳しく、障害は管理職のメンタリティである(リーダーシップの課題)
-一部のメンバーには学習性無力感が染みついており、また他のメンバーには今までの文化に順応することが染みついており、なかなか行動に至らない(主体性の課題)
一方、部門毎に見ていくと個別の特徴が出てきました。そこで、10数部門、それぞれの部門長及び部門の管理職数名及びLincqordが集い、各部門の組織診断結果を共に紐解きました。紐解き時間はリーダー陣の内省の時間ともなりました。その後アクションプランを策定し、現在実行フェーズに移っています。
E社はグローバル展開を拡大してきましたが、さらにグローバル経営を組織全体に浸透させるために、CQに注目し、Lincqordとともに取り組み始めています。
最初のステップは、社内におけるCQリーダの選抜・育成でした。役員候補の幹部層10名ほどが選抜され、現在のグローバル経営における組織の課題、自分自身のこれまでの国内外での経験やそれを通した問題認識、今後の経営の方向性を議論しながら、E社にとってCQ浸透が必然であることを徹底的に議論します。そのうえで、CQの4つのケイパビリティを高めるブートキャンプに参加し、CQの発達段階を向上させていきました。
次のステップは、そうしたCQリーダが自らの組織でCQを活用したマネジメントを推進することでした。部下や他部署との対話、顧客への提案内容の考え方、新製品開発のアプローチなど様々なビジネスシーンにおいて、CQの考えを用いて、ビジネスに取り組んでいきます。また、そのプロセスを通して、10の部署で100名以上がCQを理解するようになりました。この時点で、CQが社内の共通言語になり始めました。
三つ目のステップは、CQサミットの開催です。CQを世界中で実践するスペシャリストを招き、E社のグローバル経営におけるCQの位置づけを組織全体で議論するイベントを開催しました。イベントの最後には経営トップが、CQを全面的に組織展開することを宣言し、CQの高い組織づくりが加速するトリガーイベントとなりました。
Lincqordのプロジェクト終了後も、E社においてはCQアワードの開催、CQの浸透度の効果測定(企業文化の定期診断)、CQリーダーの継続育成の内部化などが進められています。
F社はBtoBでグローバルにおいて成長を遂げてきた経緯を持ち、特に製品Xにおいては長年グローバルシェアNo.1のポジションを築き、業界をリードしてきた。他社に先んじるR&D、安定の生産管理、顧客との強固な関係により、業界トップの地位は揺るがないという自信を持っている。
そうした経緯から、製品Xの戦略的検討はこれまでの成長と成功を築いてきた日本本社の関係者内で行われ、欧州拠点や北米拠点はそれに従う構図ができていた。「欧州も北米も日本が指示する通りにやればいい」という発想が徐々に常識となり、「現場からの意見は参考情報」、「現場と議論をしても有用な示唆はない」といった意識が本社関係者には強く根付いていた。さらに言えば、「欧州拠点はもっと素直に本社の指示に従ってほしい」という声が高まっていた。欧州拠点においては、前提条件なしに自由に議論することが常識であり、本社の方針に意義を唱えることも少なくなかった。気が付けば、本社関係者にとって欧州拠点は「面倒な人たち」になっていた。
しかし、近年、製品Xの市場においてF社の綻びは徐々に大きくなりつつあった。デジタル戦略で出遅れていたのである。競合他社は消費者に直接機能を訴えかける取り組みを展開し、SNSを巧みに活用していた。「我が社のビジネスはBtoB」、「デジタルマーケなんて不要」と割り切っていたF社の日本本社は、SNSを活用したデジタルマーケティングに一切興味を示さない。欧州拠点メンバーは何度もデジタルマーケティングを本社に提案するが、受け入れられない。欧州拠点においては「東京の人間はアタマが硬くて、もううんざりだ」という声すら上がり始める。両社の対話は深まらず、時間が奪われ、シェアが奪われた。劣勢は顕著であった。
Lincqordは欧州拠点と日本本社の主要関係者が参加するワークショップをコーディネートした。ワークショップに呼ばれた関係者は主に幹部層であり、デジタル戦略の遅れを一刻も早く議論したがっている。しかし、ワークショップの最初の2日間、Lincqordはビジネストピックをほとんど取り上げないことを選択した。お互いに相手をどう見ているのか。仕事を進めるうえで、なにが前提なのか。チームとはどういう状態であるべきなのか。こういった議論を2日間にわたり丁寧に行い、摩擦と行き違いを紐解いていく。前工程の苦悩、後工程の重圧、本社で求められるガバナンス、拠点の限界と可能性、言語の壁、経験の違いに基づく溝。こうしたことが共有されなくては、すなわち、お互いの立場と文化が分からなけらば議論は意味のあるスタートしない。そうした発想に基づいて2日間、“青臭い対話”が繰り広げられた。
ワークショップの3日目、正面から議論ができる土台が双方に整った。デジタル戦略の議論が始まる。議論は勝手に進む。論点が次々に挙がり、遠慮なく全員が言いたいことを発言する。もはやファシリテートも必要ない。二つの異なるカルチャーがクロスし、これまでは存在しなかった1つのチームが生まれた。
顧客グリップ力が強く、顧客からの要望には自社が泥を被っても応え切るスタンスが全社に根付いているG社。Lincqordに最初に頂いた相談は若手社員の離職率の高さでした。
顧客主義の企業文化は、場合によっては、社員の人生よりも仕事を優先することを社員に強いてしまいます。このまま走り続けると自分の人生が犠牲になってしまっているのではないか、と感じた若手社員が静かに会社を離れていく、このような構図が出来上がっていました。
そこで、社員、顧客を含むすべてのステークホルダーが等しく幸せを享受できる会社を目指すことをビジョンに掲げたいという想いの下、ビジョン策定プロジェクトが立ち上がりました。若手中堅ベテラン社員の希望者が、会社の歴史を振り返り、現在の会社の強みと課題を語り合い、未来を構想しました。そのエッセンスを煎じ詰め、紡がれた文言が最終的にビジョンとなりました。ビジョンが刻まれた名刺、ビジョン策定のストーリーを語った動画、関係者に配布するビジョン入りステーショナリーなどは、新生G社を強く印象付けます。
ビジョン策定プロジェクトの想定以上の副産物は、プロジェクトメンバーの意識変容でした。
―今までは目の前の仕事に追われ、自分の仕事がが社会にどのような価値を提供しているのか考えたこともなかったが、最近、自分の仕事がどのように社会に還元されているのか考えながら顧客と向き合うようになった
―これほど素晴らしい仲間がいる会社であることに初めて気づかされた。自分は井の中の蛙であった。もっと周りから学ぶ姿勢を持たねば、いつのまにか自分の成長が止まってしまいそうだ
―経営層が自分たちの話に真摯に耳を傾けてくれる姿勢から、いかに自分たちが期待されているのか自覚した。自分のことだけではなく、会社のために頑張りたい
このようなコメントが多く寄せられました。
ビジョン策定は、策定がゴールではなく、浸透が最も大事なフェーズとなります。現在全国に社長が飛び回り、ビジョンをテーマにした座談会が開催されて、じわりじわりとビジョンが全社に染み渡りつつあります
人員体制を維持しながら事業拡大を目指すH社にとって、DX推進は成長戦略の要に位置付けられ、多くの予算と工数が投入されてきました。しかし、そうした努力にも関わらず、各現場では従来からの業務スタイルにこだわる傾向が強く、DXによる新しいツール、新しい業務推進、新しいコミュニケーション等が定着しませんでした。より正確には、DX推進部門が提案する各種の施策が、他部門において採用されませんでした。「変化に対してアレルギー反応を起こすのは当社の伝統芸なので、仕方ないかもしれません」 そうした諦め感が漂うなかで、Lincqordのプロジェクトはスタートしました。
議論を進める中で、Lincqordは3つの観点から問題を絞り込みました。すなわち、①現場各部門のDX推進リーダの問題、②現場社員の問題、③DX推進部門の問題に焦点を当て、DXカルチャーの醸成・浸透に着手しました。
まず、①現場各部門のDX推進リーダについては、DXへの意欲、DXの知識、現場業務の理解などに関しては問題は見受けられませんでした。各現場にどのようなDXがフィットするのかを的確に把握し、DX推進部門と議論をして、施策を練るプロセスは正常に機能していました。一方、足りないのは「自分一人で成功を体験すること」でした。DX推進リーダは30代から40代前半までの社員が多く、H社におけるそうした世代は入社してからほとんど攻めの施策に触れたことがありませんでした。すなわち、新しい投資によって、新しい仕事を作り出すために、組織に提案し、合意形成を進めた経験を持っていませんでした。Lincqordは、そうしたDX推進リーダの【A】リーダシップ開発、【B】組織ではなく自分個人のDXパーパスの議論を行い、成功体験を獲得することを支援しました。
次に、②現場社員の問題は、上述の「変化に対してアレルギー反応を起こすのは当社の伝統芸」という言葉が象徴していました。こうした問題はH社に限らず、どういった企業においても存在することをLincqordは経験してきました。そして、Lincqordは「現場が受け入れたくない変化」と「現場が受け入れられる変化」を見極めてきました。「変化」とは、言い換えれば「非日常」です。日常を維持し、非日常を敬遠したいと考えるのは、多くの人間にとって当たり前のことで、まずはこの事実をDX推進側が理解することが重要です。次に、DX推進における「日常」と「非日常」の意味を掘り下げることが重要です。一つの公式なルールや仕組みの下で、業務を行っているのは「日常」です。逆に、業務Xを業務Yに移行するプロセスは「非日常」です。すなわち、業務Yが非日常なのではなく、移行プロセスが非日常なのです。ほとんどのDX推進側はこの事実に気づかず、移行プロセスを丁寧に慎重に設計します。時間をかけ、膨大な資料を作り、多くの現場ヒアリングや、多くの説明をします。そうして「非日常」である移行プロセスを巨大な負担にしてしまい、変化への抵抗を生み出してしまいます。H社のDX推進もまさにこの罠にはまっていました。Lincqordは、「移行プロセスを短く・小さくする」ためのグランドルールをDX推進側と設計し、現場が感じる変化を最小化・最短化することを実現しました。
最後は、③DX推進部門の問題です。多くの企業と同様に、H社においてもDX推進部門はキャリア入社組が多く、H社における経験が短い社員がどんどん増えていました。そうしたH社にとって新しい社員は、「こういうDXが世の中の常識」、「このツールは導入して当たり前」といった発想が強く、それが進まないH社に落胆していました。Lincqordは世の中とH社をバッサリと分けて整理すること、すなわち「こちらとあちら」という二極的な捉え方はアレルギー反応につながることを経験してきました。LincqordはDX推進部門の各階層、各チームにワークショップを開催し、現場の立場に立ち、現場のメガネをかけて状況を捉えることで、H社にフィットするDX推進アプローチが見えてくることを体感してもらいました。
上記の取り組みにより、H社のDX推進は新たなステージに投入し、スピード感をもって推進されるようになりました。同時に、H社は、各部門の関係性の改善、30代~40代のミドル層のリーダシップ向上、チェンジマネジメントの要諦も副産物として獲得することができました。
数度の統合により、事業拡大を遂げてきた製造業G社。出身会社や経験によって、役員層の知見、視座、価値観がまちまちでした。それにより営業部門と本社部門の意思疎通が円滑に進まない、リージョン毎に評価基準が異なりガバナンスが効かない、全社ナレッジ共有が進まずに個人の力量に根差した営業活動に留まっている、など様々な課題が累積していました。
人事部門は役員同士が対話をする機会を作ることを模索していたものの、自社の経営課題を真正面から議論をするまで関係性が構築されていませんでした。そこで、経営知識を習得する役員研修を企画し、前半は知識を習得する、そして後半は学んだ知識を自社に引き寄せ、自社の可能性や課題を議論するという組み立てにして、関係性融和を目指しました。
研修後に出てきた声は下記のようなものでした。
―マーケティング議論を通じて、自社の営業の在り方について深く考えた。我々は顧客に仕掛ける、仮説をぶつけることを避け続けてきた。顧客には従うべきだというメンタルモデルが強すぎた。もっと顧客に真正面から向き合い勝負せねばならない。
―我々は、XX支店を閉鎖するべきだと20年前から薄々気づいていた。しかし経営陣はその議論を避けていた。誰も火中の栗を拾いたくなかったのだ。今回、経営陣が徹底的に自社経営について議論する機会を得て、XX支店の決着をつける決心が全員の中で固まった。誰かひとりが責任を負うのではなく、全員の責任で意思決定できた。
―自分が自分の弱さを部下に見せることはタブーだと思っていた。しかし、研修の中で各自のリーダーシップに対する率直なフィードバックを受けて、弱さを見せ過ぎないことが部下との距離を作っているという指摘を受けた。目から鱗の経験であった。
研修で役員層が炙り出した課題解決のために、現在Lincqordはコンサルタントとして伴走しています。
J社は世界数十ヶ国に事業展開し、グローバル経営の長い経験を持っていますが、グローバルリーダーの育成においては長年課題を乗り越えることができませんでした。特に、海外現地法人の社長や幹部層のパフォーマンスに関して、長いこと悩んでいました。
通常、J社においては海外現法社長や幹部層の駐在期間は3~5年ですが、赴任してから定着するまでに1年、人心掌握までにさらに1年で、新たな商流開発や顧客開拓などの戦略的な取り組みに十分な時間とエネルギーを投下できずに帰任してしまうケースがほとんどでした。2年かけて現場組織や市場構造を理解しても、1年後には帰任するかもしれないと考えると、新たな取り組みに着手しづらいものです。また、現法トップがそのように就任・定着・退任する構造では、現地採用社員も本気の提案はしにくい状況でした。現場では、毎日のようにトラブルが起こり、新たなリスクが顕在化します。税務当局からの要請や指摘、輸出入に関する新たな規制、地政学リスク、労働争議、雇用市場の環境変化・・・こうしたテーマは、日本の本社であれば各部門が対応してくれますが、組織体制が十分ではない現地法人においては社長一人で取り組まなければならないケースも多々あります。
こうした問題認識から、J社のグローバルリーダー育成プログラムは、現地法人社長としての「予習と体力づくり」を徹底するという方針に固まり、現地法人の経営経験を持つLincqordがプログラムの設計・トレーニングの推進を行うことになりました。
半年強のプログラムにおいて、Lincqordは「現地法人トップとしてヒトとカネを使いこなす」をテーマにし、トレーニングを実施しました。具体的には、以下のテーマに取り組みます。
-ヒトに関する攻めのテーマ:採用、育成、権限移譲、幹部候補の抽出・説得
-ヒトに関する守りのテーマ:解雇、昇格・降格マネジメント、労働争議
-カネに関する攻めのテーマ:新規投資計画の立案、M&A・アライアンスの企画、投資評価
-カネに関する守りのテーマ:税務チャレンジ、昇給管理、不正・横領対応
いずれのテーマにおいても、リテラシーや知識を吸収することよりも、経営者としていかに判断・意思決定し、組織にポジティブな効果を発揮するための鼓舞力・発信力を身につけることを重視しています。鼓舞・発信するにあたっては、英語を用いたロールプレイも重視し、参加者はどのように英語と向き合うかをそれぞれが理解することができます。
K社は女性活躍に積極的に取り組んでおり、特に2015年前後からの10年間においては、ヒトもカネも投入して女性リーダーを育成するために経営トップも含め全力を注いできた。
しかし、女性リーダー層は思うように形成されず、K社内は焦りと不安が大きくなっていた。あらゆるタイプのトレーニングや機会付与、時短勤務などのサポートや、女性コミュニティなどを企画開催するも、女性社員のリーダーへの挑戦意欲が上がらずK社は悩み果てていた。
K社に対するLincqordの提案はシンプルで、「女性への足し算から、組織からの引き算にシフトしましょう」というコンセプトで検討がスタートした。“女性への足し算”というのは、女性社員に対する能力開発、機会付与、サポートなどの取り組みであり、既に過去10年超の取り組みで効果は限定的であることは見えていた。もちろん、これらは女性リーダーを生むための必要条件の一部ではあるが、十分条件ではなかった。女性社員に対して行うべきは、“なにが理由でリーダーになることを躊躇するか”、“リーダーになったら何に挑戦したいか”を本音で話してもらうことであり、ほとんどの企業と同様にK社もそれができていなかった。これまでも女性社員にそうした問いをぶつけていたものの、表面的な回答しか得られていなかった。Lincqordは少人数対話会を活用し、会社側の期待を一切女性社員にぶつけず、ひたすら女性社員が本音で話せる環境を作った。
そうしたプロセスに基づき、“組織からの引き算”をスタートした。K社においては、特に男性上司のトレーニングに力点を置いた。K社におけるこれまでの常識、これまでのコミュニケーション、これまでの美徳を前提としないことの必要性を男性上司層に認識してもらう。そうした新しい企業文化を作るうえでの女性社員の役割を男性上司層が腹落ちする。さらには、そうした意識をもって女性社員とコミュニケーションし、メンターとなり、コーチングをするスキルと意識を学んでもらった。“女性社員”と一括りにするのではなく、個々人に違いがあること、それは本人に聞かなければわからないこと、だから踏み込んで対話することの必要性を男性上司層が理解することに特に注力した。
リーダー層手前の女性社員ばかりが集められ、励まされ、鼓舞され、知識を押し込まれ、「ああ、きょうもこのパターンか」と苦笑いが繰り返される取り組みはK社において皆無になった。一方で、男性上司層、幹部層、役員層向けに“組織からの引き算”を考えてもらうセッションは今も続く。そうしたセッションの先に、K社に新しい企業文化が芽生える。そうしたロードマップに基づき、女性リーダーを育むK社の取り組みは続く。
L社は技術力とプロジェクトマネジメント力に長け、業界内で信頼を置かれる工事会社としてブランドを築いてきた。業績も案視しており、派手さはないが、堅調に成長を継続してきた。ところが、過去数年で経営環境は様変わりした。雇用市場においては流動性が向上し、人手不足が定常状態となった。顧客からの要請に応えきれぬほど設備工事の需給はひっ迫し、顧客に対しても強いプライシングを求めることが必要条件となった。アクティビストをはじめとした株主・投資家の要請も厳しくなりつつあり、安易な受注/ディスカウント受注には社外取締役からも牽制が働く。コーポレートガバナンスもかつてとは異なり、財務会計も管理会計も高い水準が求められる。
こうした変化に対応するためには、部長層やその次の世代まで意識を変え、目線を変える必要がある。L社経営トップはそのように判断し、Lincqordを能力開発のパートナーに選定した。経営トップの期待を踏まえ、Lincqordはリテラシー開発のプログラムの策定に着手する。意識すべきは、“なにを理解すべきか”であり、“なぜそれがL社にとって必要か”の2点であった。クライアントとの対話を重ね、Lincqordは下記のプログラムを提案・実践した(抜粋)。
-マーケティング:なぜ既存顧客の御用聞きではダメなのか/プライシングはどうあるべきか
-戦略:収益を最大化するために、どの領域でどういったバリューチェーンを作るべきか
-ファイナンス:当社は株主に対して、どの程度のリターンを提供すべきか/なぜか
-財務会計と管理会計:この現場の利益は、財務諸表のどこにどう影響するのか
-コーポレートガバナンス:取締役は誰のために、誰の何を取り締まるのか
-HRM:雇用市場でどのような変化があるのか/部下にどう接するべきか
-チェンジマネジメント:明日から現場を変えていくために何ができるか
各テーマにおいては、ベースとなる考え方やフレームワークを理解することはもちろんのこと、それがどうしてL社の経営に関係するのか、自分自身の部署に関係するのかを議論することを重要視した。本プログラムに取り組むことで、幹部層のリテラシー向上に加え、3つの副産物をL社は得ることができた。
①幹部層が経営トップの発言やメッセージをより的確に理解できるようになった
②幹部層のうち、より高い経営レベルのテーマに関心・意欲を持つ人物を特定できた
③各現場における顧客との関係性、部下との関係性に変化が生まれた
M社は、自社プロダクトの安定供給により、安定成長が見越せる盤石なビジネスモデルを確立していましたが、近年の業界構造変化により、売上もここ数年は停滞気味となっています。経営層は危機感をもって、異業界との協働、M&A、社内ベンチャー立ち上げなど新しい挑戦を方針として掲げています。新たな仕掛けを行うべく、戦略部門を立ち上げて10年経つものの、目立った動きができていませんでした。さらにこの10年、戦略部門メンバーはビジネス知識を学ぶ機会を得てきたもののが、学んだ内容が業務に反映されていないことも課題とみなされていました。
その背景には、保守的な企業文化と前例踏襲を良しとするリーダーシップスタイルが根付いていると経営層は判断し、この根本から切り込んでいかねば、新規事業などの新しい動きは生まれないのではないかとの問題意識の下、戦略部門リーダー10数名とLincqordとのプロジェクトがスタートしました。
まず、自社の企業文化を紐解き、その文化により形成される社員のメンタルモデルを紐解きました。
例えば、
-「失敗が許されない文化」は「上司から指摘を受けるということはダメ社員だというレッテルだというメ ンタルモデル」を生んでいました。そうすると社員は指摘を受けぬよう無難に仕事をこなすようになります。
-「上意下達文化」は「上司はメンバーの至らぬところを見つけなければ上司としての価値を発揮していないというメンタルモデル」を生んでいました。結果、上司と部下の間で本音が話されづらくなります。
このような企業文化、メンタルモデルをじっくり語り合う中で、プロジェクトメンバーは徐々に自分たちが是としてきた価値観の一部に自ら疑問を持ち始めます。
続いて、自らのリーダーシップについてアセスメント(Leadership Circle Profile® )を受け、自分はクリエイティブ・リーダーシップ(注1)を発揮できているのか、リアクティブ・リーダーシップ(注2)に留まっているのか、コーチと共に自分自身を振り返り、自らの意思でリーダーシップの発揮の仕方を変 えていく決意を固めました。
自社を客観視し、自身を客観視するプロセスを経た上で、いよいよ本プロジェクトの最大テーマである新しい挑戦に関して各人がテーマ設定を行い、実装までのプロセスを描きます。Lincqordは一部ビジネス知識をお伝えすることもありますが、多くは伴走者としてプロジェクト円滑遂行のアドバイスを行います。テーマは他社との協業、M&A、社内評価制度刷新、など多岐に渡りました。数カ月間かけて、テーマの実現のために社内外の関係者を巻き込んで走り回ります。その間、壁にぶつかったり、衝突したりすることもありましたが、躓きそうになると、自社のメンタルモデルや今までのリーダーシップスタイルに先祖返りしていないか、と自問自答しながら、そしてプロジェクトメンバー同士励まし合いながら、現在もメンバー全員が走り続けています。この成果は数年後のM社有価証券報告書に反映されることとなるでしょう。
(注1)クリエイティブ・リーダーシップ
自らの信念に基づき、他者の能力を引き出している、ビジョンを持って組織を率いている、自らの成長に力を注いでいる、誠実に且つ勇気を持って行動している、システム(組織やコミュニティなど)の向上に貢献しているようなリーダーシップの発露の仕方を意味する
(注2)リアクティブ・リーダーシップ
結果を生み出すことよりも慎重さを、生産的な行動よりも自己防衛を、協調性の構築よりも攻撃性を優先しているようなリーダーシップスタイル。これらのスタイルでは他者に認められること、自己を守ること、操作的に結果を得ることに焦点があてられ、リーダーシップの可能性を制限することに繋がる
上記概念はLeadership Circle®に基づく
N社は広くグローバル展開をしており、海外ビジネスが業績の大部分を占めます。故に、N社に入社する社員は海外志向が強く、早く、たくさん駐在員として経験を積みたいという考えが主流派でした。かつては。
昨今では状況が変わり、海外志向の社員は減少傾向にあり、本社以外で働きたくないと考える社員が増え始めています。そうした中で、N社のこれまでの駐在員セレクションは機能しなくなりつつありました。すなわち、「この駐在員ポジションはあの部署のあの担当から選ぶ」というパターンを継続すると、海外駐在に対して後ろ向きな社員が選任されてしまう事態が増えてしまいました。
こうした課題に対し、Lincqordは以下のソリューション・トレーニングを提供しました。
①CQドライブ測定
若手~中堅層全般を対象に異文化に向き合うモチベーションを持つ人/持たない人の振るい分けを行う
駐在員検討タイミングではなく、毎年1回の頻度で対象となる全員に実施する
②国民文化フィットの測定とトレーニング
上記①で高いモチベーションを持つ将来の駐在員候補者について、個々人の文化的特徴を測定し、トップダウンの強い文化に適応できる、個人主義の文化にはフィットしないといったチェックを行う
また異文化マネジメントのベーシックスキルを学び、それを使いこなす能力を向上させる
③駐在先決定後の赴任前トレーニング
異文化マネジメントの実践スキルを学ぶと共に、赴任先で想定されるチャレンジをリストアップし、それらに対する対処方策を検討する
一人ひとりが駐在ジャーニーを作成し、駐在期間中に成し遂げることを名確にする
地域に根差した経営をするO社は、世代間の価値観ギャップやコミュニケーション不足に課題を感じていました。人事部門は「ただでさえ歴史的にミドル層が少ないのに、このまま若手とベテラン層の連携が希薄になると、ノウハウ伝承どころか通常の業務運営にも支障がでかねない」と考えています。
こうした背景の下、現状を把握すべくLincqordはまず一人ひとりの価値観を明らかにするワークショップを開催しました。「どこまで、どのような価値観ギャップが世代間にあるのか」を解き明かすために、Lincqordは若手もベテランもミックスしたワークショップを開催しました。そこで出てきた企業経営方針に関する3つの価値観は以下のように別れました。
【A派】この地域を代表する企業として地域のブランド向上を最優先したい
【B派】サービス業として顧客満足を最優先したい
【C派】上場企業として、業績向上を最優先したい
人事部門にとって想定外だったのは、“世代間の価値観ギャップはなかった”ということでした。すなわち、若手もベテラン層も、まんべんなく【A派】、【B派】、【C派】に分かれたのです。ギャップは世代間にあるという仮説はずれていたことが検証されました。とは言え、3つの価値観に分かれており、お互いに相手を認めることができていないという問題も顕在化しました。例えば、【C派】は【A派】を、「彼らは営利企業とNPOを混同している」と指摘し、【A派】は【C派】を「お金にしか興味がない可哀想な人たち」と決めつけていました。
大切なのはここからの対話です。丁寧に話し合い、3つの価値観いずれも間違っていないこと、補完し合っていること、O社にとって必要であることをゆっくり共有していきます。対話が続く中で、参加者は皆気づきます。そして最終的に「お客様に満足してもらえなければ利益は得られず、利益がなければ地域ブランドのための投資ができない」という結論が得られました。こうして全員が共有できる理念が得られれば、社員は自ずと前向きに業務に取り組みます。若手であれば、自分が大切にする価値観のために、この組織で働きたいし、そのなかでより重要な役割を持つことを前向きに捉えます。ブラックなのではないか、ホワイトすぎるのではないかといった議論が組織の大きな論点ではなく、全員が共有した理念のために、一人ひとりが前向きに仕事に取り組む毎日が始まりました。
これまでP社はアジアを中心に外交人社員を採用し、日本国内に居住してもらい、日本事業の体制を補完・強化してきました。外国人社員が入社するにあたっては、日本語研修、日本での生活マナー研修などを実施し、居住環境を整える支援なども行ってきました。こうしたサポートにも関わらず、定着率は決して高くなく、在籍期間が2年を超える外国人社員は限定的でした。ただ、それまでの経営層は「そんなものだろう」と理解し、それ以上現状分析や新たな施策の立案に取り組みませんでした。
Lincqordが依頼を受けたのは、新社長が就任したタイミングでした。「外国人社員は一部しか残らず、また残った社員の大部分は日本の文化にうまく合わせることができている少数派の人材だ。逆に言えば、我々は大部分の外国人社員を力にすることができずに、採用・教育努力も棒に振ってしまっている」 そう説明する新社長の仮説は的確であり、CQを理解していないP社は外国人社員を取り込むことに成功したとは言えない状態でした。
新社長の依頼は「より多くの外国人社員に日本の文化を的確に理解してもらうこと」でしたが、Lincqordは、外国人社員・日本人社員の合同ワークショップを提案しました。外国人社員がフィットできない理由は彼らだけでなく、日本人社員にもあると考えられたからです。双方が相互の文化を理解することで、仕事の進め方は格段にスムーズになり、関係性は良好になることを新社長に理解してもらい、CQを高める複数回のワークショップによって以下のトレーニングを行いました。
-国民文化を理解するためのフレームワークの理解と活用
-日本、ベトナム、中国など各国文化の特徴の理解と活用
-各国の特徴を踏まえた際に効果的なマネジメント/そうでないマネジメント
-P社の企業文化の言語化と、そこへのフィットメントアナリシス
-効果的な衝突と、衝突のマネジメント
ワークショップを重ねる中で、外国人社員、日本人社員の双方に発見と気づきが生まれ、より効果的な働き方のアイデアが出てきました。P社ではCQトレーニングを全階層・全職種に広げると共に、ワークショップ等の定期的な開催によってCQの向上に継続的に取り組んでいます。